山下裕二氏(山種美術館顧問・明治学院大学教授)
鈴木芳雄氏(美術ジャーナリスト・編集者) 山下 まず日本画モダンと言って真っ先に思い浮かぶのが、《雨》と《漣》という平八郎の代表作だと思うのですが、鈴木さんはこの二作品をご覧になってどのように思われましたか? 鈴木 これらの作品を見たとき、写真的だと思いました。写真による表現の特徴であるトリミング、フレーミングという視点、つまり写真的ビジョンで日本画の世界が表現されている。その大胆さが格好いいですね。 |
山下 本当にそうですよね。実は平八郎の作品を、写真的ビジョンと関連づけて考えることはすごく大切だと思います。というのも、若い研究者、中川馨さんが最近書かれた『動物・植物写真と日本近代絵画』(思文閣出版、2012年)という本を読んでかなり驚いたんです。岡本東洋(おかもと とうよう、動物・植物写真家/1891-1969)という写真家を軸に、写真と絵画の関係が論じられているのですが、これを読む限り平八郎と写真の関係はかなり密接ですね。本の中にも掲載されているのですが、平八郎の《漣》と大変よく似た岡本東洋撮影の写真があるんですよ。今後、写真的ビジョンと絵画、特に日本画との関係は、すごく大きな研究テーマになってくる気がしますね。